ここで言うジャケットは、洋服のそれではなく、レコードのジャケットね。 後々にはそんなことは無くなってきたんだけど、レコードを選ぶ時の大きな要素の一つだったのがジャケットのデザインだった。現代のようにネットなどが無い時代、私のような子供には楽曲を知るすべはなかった。あるのは文章による情報のみ。レコード屋の中には買う前にお店のプレーヤーで聴かせてくれるところもあったが、そもそもちょろっと聴いたぐらいでは何の判断もできなかったし、何より大切なレコードがお店のぼろいレコードプレーヤーで鳴らされることがなんとも嫌だった。当然全く知らない状態で買ってくるのだが、藁をもつかむ気持ちでレコードのジャケットとにらめっこすることとなる。前にも書いたけれど、当時はレコードというものが大きな市場を持っていて、各メーカーもジャケットにはかなり力が入っていた。相変わらずつまらないグラモフォンのジャケットを除いて、まさに百花繚乱、素晴らしいデザインのものが多かった。中には岡本太郎にジャケットデザインも題字も依頼したものまであった。世界中の名画をつかったものも多く、後になって随分役に立った。もちろん素晴らしいものばかりではなく、なんじゃこりゃというものもあって、小学生の私にはショッキングなものもあった。どうしても気になるんだけど、すごいジャケットだったのでなかなか買う勇気が出ないものもあった。顔だけの不気味な巨大な石像が暗い森の中に聳えており、その前に全裸の女性が横たわっている。女性はキュビズム的な描かれ方をしているとはいえ、こんなジャケットのレコードを堂々と売っていて良いのかと、困惑した。小学生の私には、そのジャケットを眺めるだけで気恥ずかしく、困った。しかしインパクトはさすがに大きく、ずーっと気になっていた。もちろん曲もその内容も全く分からないのだが。ある時、家にいる時から一大決心してレコード屋に向かった。今日はあのレコードを買うんだ! いつものように、最初は全く訳も分からなかったが、どんどん引き込まれ、愛聴盤になった。ストラビンスキーの「春の祭典」だった。随分後になってわかったのだが、あの顔は、ストラビンスキーの顔がモチーフだった。